月見酒(MINT's World)

国内仕様馬力自主規制撤廃へ

2007年7月上旬、バイクの馬力メーカー自主規制が撤廃されることになったとのニュースが世間を駆け巡りました(参考)。 今からは考えられない程の数のバイクがうようよしていたレーサーレプリカ全盛期の 1984年から事故防止名目で飽くまでもメーカー側が自主的に導入し、1995年に以下の表の様に再設定されて現在に至るのがこの規制。 国内仕様が一様に横並びで、大型二輪になると逆輸入車と劇的な出力差が在ったのは、この規制に因る物です。

対象排気量規制値
50cc 以下7.2ps
51 〜 125cc22ps
126 〜 250cc40ps
251 〜 400cc53ps
401 〜 750cc77ps
750cc100ps

この規制が、日本の公道に合わせた特性を持たせた国内仕様車を生み出させた反面、仕様変更や全く別カテゴリーのバイクを開発するためのコストが、徐々に体力を失いつつある二輪車開発製造メーカーを無用に圧迫していたのも事実。 規制撤廃の時期が明らかになっていませんが、これに因って業界の構造が変化する可能性が在ります。

アメとムチ

一方、2007年1月頃にバイクの騒音規制が強化されると云うニュースも流れていました(参考)。 現状でも新認定車に対しては相当に厳しい規制を課していますが、あらゆる面でさらに踏み込んだ強化内容になっており、イレギュラーな改造で実際に爆音を撒き散らしているバイク以外に対して覿面な効果のある、外車だと新車の時点で認定が通らない車種があると推測される程の規制となる様です。

また、「平成18 〜 20年規制」と呼ばれる新しい仕様の排ガス規制も掛け始められています(参考1参考2)。 やはりこれも厳しい物で、騒音規制と合わせてエンジン出力は落ちる方向になる物ばかりであり、これに対する交換条件の様な物として馬力自主規制撤廃に踏み切ったとも考えられます。

今後の展望

問題は、「この三つの規制の変化によって、今後のバイク業界がどう変わって行くのか?」と云う点です。 いろいろな未来が考えられますが、排気量クラスごとに明暗が分かれそうです。

ビッグマシンクラス(800cc 以上)

早期に分かり易いポジティブな効果が有りそうなのが、このクラスです。 あえてフルパワー仕様を逆輸入する必要が無くなるため、今まで逆輸入流通向けとしていた車体がそのまま日本国内販売向けにラインナップされるかもしれません。 逆輸入車と云う、裏技カテゴリーが丸ごと消滅する訳です。 大型二輪車カテゴリーの大きな稼ぎ頭でもあり、最も国内仕様が求められていなかったスーパースポーツ車類は、そのままスライドしてしまえばメーカーとしても売り上げがそれなりに見込めるはずです。 そうなると純正パーツの流通事情にプラス、乗り出し価格もかなり下がると推測されます。 騒音規制や排ガス規制に関しても、(「二輪業界内で相対的に」ですが)潤沢な予算で対応可能ですし、出力ダウンがあったとしても元々素人では持て余す余剰なパワーがあるので、大きな目で見れば問題ではありません。

ただ、有名無実化していたとは云えガチガチだった馬力自主規制が無くなったからと云って、いきなり欧米の様なラインナップ状態になるのはショックが大き過ぎますし、何らかのヒステリックな反発を受ける可能性も大いに在ります。 また、それなりの数が日本国内に流通していたと云っても、やはり国内仕様とのサポート体制の差はあったため、これを整備する必要も出てくるであろうと考えると、かなりソフトランディングになるのではなかと個人的には予測しています。 カワサキは一番動きが早そう、スズキは知らない間にいつの間にか移行完了してそうですが、ヤマハなんてしばらくどうにもならないのではないでしょうか。 ホンダはメーカー本体としては逆輸入を事実上無視した様な状態でしたが、国内仕様が在る事がサポート網の存在を意味するので、一度移行すると決断すれば早いでしょう。

そうなると、最初に行われるのは、手っ取り早く行える既存の日本国内モデルのモディファイなのでしょうね。

ハイミドルクラス(600cc 前後)

化ければ化けるかもしれないのが、このクラスです。 現在の規制値を突き破りつつも日本国内向けに若干のモディファイが欲しいクラスですが、適度な余裕のあるポテンシャルと海外でのノウハウを利用して各車種の特性や車体構成に大きな個性を付けられるはずです。 しかし、日本の免許制度とのズレ、所有欲重視のビッグマシンと手軽さ重視の小排気量車を求める市場の両極端さ、となると、どのメーカーもそこまでの調整を積極的に打ち出すとは思えないため、規制値があろうと無かろうと関係のないビッグスクーター以外の道のりは今まで通りの道のりを行くのではないかと思われます。

最低でも、欧州モデルをほぼそのまま日本国内にもスライドする様な方式が取られなければ、誰にも何のメリットもないままズルズルと走る事に…。

ミドルクラス(400cc

どうも微妙なのがこのクラスです。 現在の規制値が最も悪い形で表れていて、各エンジンから感じる息苦しさのある特性は、現在の技術レベルならば数値以上に感覚的にも打ち破れるかと思われますが、出力を上げて売り出せば行ける様なモデルは、現状のままでもミドルクラスのロードスポーツカテゴリーを独占しているホンダ「CB400SF・SB」だけ。 カワサキ「ZZ-R400」のかわいそうな特性も何とかして欲しい所ですが、パワーならビッグマシン、居住性ならスクーターで代替されてしまうので、大型で忙しくなるカワサキにそんな余裕はあるかどうか。 設計の古い「XJR400」をヤマハがどうにかする事は不可能に近いですし、そんな気も皆無でしょう。

となると、馬力面は「CB400SF・SB」がちょっと弄くってお終いになってしまう公算がほぼ確定的です。 騒音・排ガス規制的にも、1割アップ程度がギリギリではないでしょうか。 それよりも、設計の古い様々なモデルが廃止になっていくことの方が遥かに心配です。 スクーターだけは馬力規制には無関係だしこのままでも順調、むしろ騒音規制が肝要なので、地位は現状維持か上に向かう事になるでしょう。

大穴として、スズキが「GSR400」を絡めた猛烈な攻勢に出る未来も在るかもしれませんが…。 実は、スズキだけ既にオンロード・オフロード・スクーターに必要なエンジンが全て揃えているんですよね。

軽二輪クラス(250cc

元々規制値が作られる一番の原因となったのがこのクラスで、もうどうにもならないのもこのクラスです。 このクラス以下の値はどちらかというと 2ストロークエンジンの鼻っ柱を折る物で、馬力規制に関してはさほど痛い数値ではありません。 それよりも騒音規制と排ガス規制が厳しく、対応しながらまともな特性を保ったまま出力を確保するとなると、改良して使い続けてきた 1980年代エンジンを全て捨てて、新規に興さねばいけません。 それには 250cc クラスへの価格要求に応え切れないコストが掛かるためほぼ不可能です。 250cc に技術の粋が集められていた 1980 〜 1995年辺りは、冷静に振り返れば異常な状態だったのです。

非常に単純に考えると、

  • 水冷式
  • 単気筒
  • 電子制御フューエルインジェクション式
  • フルカバードボディ
  • コストを下げるために開発まで一式を海外で行う

これが条件をクリアするために有利な仕様です。 水冷式の採用はエンジン単体のコストには不利に働きますので、もしかすると空冷かもしれませんが、大きな枠ではこの方向性を取らざるを得ません。 キャブレター廃止は原付でも起こっているのに中間クラスで遅れているのは、売れていないから以外の何者でもありません。

では、何が起こりそうか具体例を考えてみます。

  • 何もしなかった、いや、何もさせてもらえなかったのかもしれないのがホンダ。もうバッサリ斬るしかありませんよね。完全に出遅れていますし。 この際、海外モデルを引っ張ってくる手段を考えるのも一興です。「Karizma」系を使う?そこまでしなくても欧州に「CBF250」があります。 が、そんな事はありえなくて、どうせ寡占だし自ら敷いた小排気量多気筒の道の後始末のためにも「Hornet」を適当に継続。 単気筒オンロードスポーツよりはモタードでしょう。スクーターが微妙な状態ですが、引っ張るしかないのでこのまま継続。後は粛々と消滅させるのが関の山。
  • ヤマハはもう見ている方向が他と違います。ユーザーの囲い込みは終了している様ですし、よろしくやって行くはず。Apple みたい?
  • 古い設計のエンジンを複数抱えてもうグダグダなのがカワサキ。趣味で続けていくのも限界な気がします。でも、今まで通りさらなる建て回しをゴテゴテ付けて解決し、ラインナップ変えずの様な気がしなくもありません。それがカワサキ。
  • ここでも意外に強かなのがスズキ。「SKYWAVE」は安牌ですし、「グラストラッカー」系は内部刷新済。馬力規制とは縁の薄いムード重視のモデルを充実させており、既に布石は終わっている様に見えます。

結局ここ 10年で起きていた緩やかな市場の変化が、そのまま続くのではないでしょうか。 この規制変化が切欠で新しい流れが起きる事は無さそうです。

原付二種クラス(125cc

何が厳しいって、既に去年から適応されている騒音規制が一番厳しい部分であり全てを握っているので、議論になる部分が何も在りません。 スズキ「アドレス V125」万歳!終わり。

原付一種クラス(50cc

原付二種とほぼ同様です。スクーター用の 4ストロークエンジンで 7.2ps 出るのなら、もうスズキがやっているはずです。 ホンダ「DREAM50」は幻です。

外車

これだけは別枠です。さし当たって、騒音規制に引っ掛かりそうなのがドカティ製です。 特に「加速騒音の値をクリアするのは不可能ではないか?」とも噂されています。 傍目には順調に軌道に乗った商売をしており、日本専用モデルの「MONSTER 400」を投入する等して市場開拓に力を入れてきましたが、もしかすると多くの車種で専用対応を求められる事になるかもしれません。 排気系ならまだしも、もしもメカノイズが問題になったりすると、目も当てられない事になってしまいます。

BMW 等は何の心配も要らないでしょうが、オンロード・オフロード含めた本気モデル主体のメーカーは苦しむ事になるか、最悪、撤退して行くかもしれません。

どうなって行くのか?

実は、今までが恵まれていたと云う事実を突き付けられている様です。 この先、日本市場の極端な特殊性は薄れ、もう少し大きな多国間の枠組みの中に擦り合わせられていくのでしょう。 それがアジア型なのか欧州型なのかは、まだ分かりませんが…。

と云うか、改めて見直すとスズキがいい仕事してるな…。

追記

2007年9月6日

ホンダが、2007年8月30日で VTR、XR250 / Motad、フォーサイト、ホーネットV-Twin MAGNA、Fusion の製造を中止しました。 これらの車種は 2008年以降も発売予定無しとしています。予想通り(より若干悪い)の展開となってきました。 設計の新しいフォルツァは残留するとして(その割には FTR も残りますが)、消えたモデルの穴埋めを行うかどうかはまだ不透明です。

2008年1月10日

ヤマハが FZ1の国内仕様販売を決定しました。 が、かなりの馬力割引率(150 → 94)となっており、これはホンダの「CBR1000RR」と同じ状態です。 開発時期が規制解除話が確定する前だからでしょうか。 国内向けのしっかりしたデチューンが施されていれば、それはそれで構わないと思いますが、輸出仕様化前提仕様だとまたややこしいかもしれません。

2008年3月17日

DUCATI「1098R」の日本向け公道仕様は、騒音規制クリアのために 78ps (kW 単位ではありません)となるそうです。

2008年12月11日

各社のインジェクションモデル化が進むと共に、リッターオーバークラスのみ 100ps オーバーモデルがちょっとづつ現れていますが、騒音規制クリアが最も高いハードルの様で、これに因って 115ps 辺りが限界値になっています。

下位クラスの排気量では、馬力面では変化は起きていません。 車種として「Ninja250R」の登場は注目です。

2009年2月25日

ホンダが「VTR」を馬力とは関係無いモデルチェンジ完了。 どうなる中型?と云う中で、やはり壁をぶち破るのはスズキでした。 今年のモデルチェンジで「GSR400」を 61ps にするそうです。

2007年7月24日
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