月見酒(MINT's World)

握りゴケが怖い

オンロードバイクの特性上最もリスキーな状態と言っても過言ではないのが、「フロントタイヤのスリップ」ではないでしょうか。 そして、スリップを起こす原因の一つが、ブレーキ効力とタイヤのグリップのバランスが崩れた時に発生する "タイヤロック" です。 ロックしても路面が平坦で直立状態ならば問題ありませんが、変な段差に乗ったり少しでもハンドル操作をしてしまうとおしまいです。 それがいわゆる握りゴケという奴で、自分にも何度か経験が有ります。

これを防ぐ方法の一つが ABS です。 しかし、二輪車ではユーザー層の違いが主な壁となって、なかなか普及してきませんでした。

この辺りが主な要因です。

人力でのコントロールを重視するので、ABS 不要論が根強い?

二輪車にこそ ABS が必要だったはず…

一つ目がある意味一番高い壁です。

しかし、前述の通りロックが即致命的な状態を招き易いのに、さらに二輪車は物理特性的(主に重量が小さいため)にロックをし易いという前提が有ります。 個人的には、リアブレーキについてはロックしても必ずしも致命的ではなく、故意に滑らせる操作方法も存在するため、無い車輛が在っても構わないと考えていますが、一方、しかしフロントブレーキはほとんどのケースにおいて致命的であり、ブレーキをきっかけにして故意に滑らせる操作方法もほとんど有り得ないため、フロントブレーキのロックはほぼ絶対悪ではないでしょうか。 そもそも、二輪車が公道で転倒する最終的な引き金はロックが担っている事が多いので、安全性と操作性のバランスを考えると何らかの機械的なアシストが有ってもよいと考えています。

その考えは、2009年からスズキが全国中で開催している「ABS 体験試乗会」に参加してからより強くなりました。

スズキの「ABS 体験試乗会」

一般向けに ABS を大っぴらに試せる試乗会を開催しているのは、2010年7月現在スズキだけです。 それだけ ABS に力を入れているということなのでしょう。 試乗では 30km/h 程度から濡らした路面の上でブレーキングを行う物で、普通ではちょっと考えられない程強く掛けても、バキバキというリアクションと共に ABS が働いて安定して止まる事が出来ました。 この程度の速度でもロックした時に余計な挙動が起きれば簡単に転倒してしまいますから、きっと助かる事も有るでしょう。 たったこれだけでも有効性が感じられます。

では、ABS を二輪車に実際に適応しようとするとなった場合の壁について考えてみます。

コスト増の影響が大きい?

コストは、ユーザーの変化で乗り越えろ?

四輪車に比べて単価が低く、また生産数が少なくて量産効果の小さい二輪車では、二つ目の壁の解決に長い時間を要しました。 過去形で述べましたが、今でも ABS の有無で 5万円前後の価格差が有ります。 但し、機能が改善された上で価格差は今も昔も変わっていないので、相対的には確かに安くなっています。

しかし、ABS の効果が上がってきて安全のためにお金を払っても良いとなると、いずれそれが量産効果に積み重なって普及率も上がって行くでしょう。

ABS ユニットに因る車輛重量増も大きい?

軽量化は今後もメーカーの努力が続く

三つ目の壁である重量は、1kg 減らすのにあらゆる利便性をそぎ落とすぐらいの事をやってのける二輪車業界では、5kg 前後の重量増は非常に大きい物です。 これはまだ各社しのぎを削っている状態なので、まだ改善の余地は有りそうです。

世代が代わるごとに軽量化されており、また、幸か不幸かいずれ訪れるであろうブレーキのフル電子制馭化の時代になると、そもそも ABS の有無という概念が無くなってしまいます。

は制馭システムへの要求レベルが高い?

ホンダの電子制御コンバインドブレーキシステム

四つ目の壁である制馭の難しさも、力を入れている会社があります。 「こなれている」という点では早くからこの手の技術に熱心な BMW ですが、今、最も多くのライダーが納得できるだろうブレーキシステムを作り上げているのはホンダです。 名前は、「電子制御式コンバインドブレーキ」。

ホンダが主に 2009年式車輛から採用を増やしている「(機械制御式)コンバインド ABS」は、単にロックを防ぐだけでなく、「CBR1100XX ブラックバード」や「VFR」に採用されていた前後連動式ブレーキシステムである "D-CBS" の機能も含まれています。 このブレーキ制馭をコンピュータできめ細かく行う様にしたものが、「電子制御式コンバインドブレーキ」です。

この電子式が機械式と違う所は、

  • タイヤが完全にロックする瞬間がほとんど無い
  • ノックバックが大変小さい
  • 前後どちらか片方のタイヤがロックするまでは、前後連動のアシストは行わない

以上の点。 これらは 2010年春のレインボー浜松でのデモンストレーションでその威力を目の当たりにしました。

まず ABS の部分について。 これは、小さくカタカタと鳴る程度のノックバック音は聴こえましたが、目視で確認できる範囲ではタイヤは停止するまで途切れず回転していて、本当に一切ロックしていません。 もっと条件が悪ければロックし得るのかもしれませんが、基本的に人力 ABS を早回ししたロックとリリースを繰り返すだけであった従来の物とは、格段にレベルが違います。

もう一つの大きなポイントは、前後連動のタイミングが限定されている事です。 「リアブレーキの ABS は必ずしも必要ではない」と述べた事と似ていますが、前後のブレーキバランスが理想的であってほしいのは一定以上強めの制動の時だけで、リアブレーキを人力で調整して行うトラクションやスライドのコントロールを行う時には無用どころかデメリットになってしまいます。 なぜなら、これらを行う時に前後連動が働いてフロントブレーキまで掛かってしまうと、たとえばバンク中であれば車体が立ってしまうなど、意図しない車体バランスになってしまうからです。 危険になっては元も子もありませんからそこまで強くは連動しませんが、フロント側の違和感は確かに有ります。 このリアブレーキコントロールはそれほど高度な物ではなく、習得している人も少なくはない実用的な物なので、自分は常に連動してしまう従来型の D-CBS には非常に懐疑的でした。 白バイ仕様の「VFR(RC46)」では D-CBS がカットされていたのも、この辺りの理由からだと云われています。

しかし、この型では片側がロック状態になるまでは連動しなくなりました。 ギリギリの状態までは、ブレーキの強さの前後比率をライダーが自由に選択できる様になった訳です。 但し、どちらかをロックするまで強く掛けないと理想的な配分にはならないので、意図的に連動状態の急ブレーキが欲しい場合は臆せずに目一杯掛ける必要は有ります。 この辺りは、他の ABS と同じです。

雑誌のレビューなどを見ると、レーサーが行うもっと切り詰めた本気のブレーキングには制動距離で負けてしまう様ですが、おそらくこのクラスのブレーキングを自力で安定して行える人は少ないでしょう。 この様なすばらしいブレーキシステムが世に出たのですが、残念ながらまだ完成して間もないのでコストが高く、また車種ごとの調整にも手間が掛かると思われるので、現在はまだ

  • CBR1000RR(2009年式〜)
  • CBR600RR(2009年式〜)
  • VFR1200F(2010年式〜)

という非常に限られた車種でしか採用されていません。 しかし、目で見てはっきりと分かる程完成度が高いので、他の車種にも展開されていく事を願っています。

他のメーカーのブレーキシステムは?

前述の通り、BMW の物はかなりこなれています。 このメーカーはサスペンションにも独自機構を持っているので、高級車種のブレーキの安定感はかなりのものです。 オフロードも視野に入っている車種は、ABS の ON / OFF の切り替えができる様にしているのも特徴でしょう。 四輪車のノウハウが使えるのも、このメーカーの強みです。

この辺りはホンダも同じかもしれません。 ホンダは早くからシステム開発を進めていましたが、普及に対しては実験的な姿勢が強かったため、スクーターに広く展開する程度でした。 しかし、2009年辺りから中間排気量のロードスポーツへの採用も始めています。 下位への展開は他よりワンテンポ遅いですが、やり始めたら早いのがいかにもホンダという感じでしょうか。

国内メーカーで、ホンダの次に開発が進んでいる様に見えるのはヤマハです。 2009年の「XJ6 Diversion」から、油圧制御が無段階になった 3モード ABS を使い始め、「FZ8 / Fazer8」にも展開されています。 但し、どの程度の物なのかは、動作させてみたことがないのでよく分かりません。

導入が早くアピールにも積極的なスズキは、ABS の動作については平凡な仕様です。 普通にノックバックが有ってロックをリリースを繰り返すだけの物ですが、しかしこれだけでも雨天でのブレーキングは格段に変わりますし、直立状態でロックさせてしまった時にちょっと段差の乗った程度のパターンなら十分カバーしてくれるずです。

残るカワサキは、無論ですからそんな女々しいものには頼ったりはしません(いや、モデルとしては在りますが)。 海外は意外と変態技術好きなイタリア勢(アプリリアなど)が、ポツポツと推し進めていますね。

理想的な車種は出るだろうか

この様に、ついに二輪車用 ABS は実用性が十分確保され、普及期に差し掛かっています。 ミドルバイク考察コラムで思い描いた様な理想的車種は現れるでしょうか? 自分の選択肢の中では、ヤマハの 3モードABS の出来次第かなと思われますが…。

余談

自動二輪車用の任意自動車保険でも ABS 割引特約は適応されます。 最近はほとんど申し込み時に案内してくれると思いますが、忘れない様にしましょう。

2010年7月17日
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